T.Rex / Marc Bolanのトリビュートサイト。 Marc Bolan(本名Mark Feld)1947年9月30日生 1977年9月16日没。1970年代のBritish Rock,GLAM ROCKを代表するアーティスト。 Tony Vistontiに見出され、朋友David Bowie(デビッド・ボウイ)らと共に若い世代を中心に熱狂的な人気を得る。代表アルバムにElectric Warrior, The Sliderなど。今日も新たなファンを生み出し続けるロック界のメリエス。

Review List
T.Rex On TV BORN TO BOOGIE T.Rex FILE THE GUESS WHO DAVID BOWIE REVIEW ARCHIVE
T.REX DISCOGRAPHY
Tyrannosaurus Rex T.REX Other-1- Other-2- VIDEO BOOKS MISC
このページの説明
リニューアル前(2005年3月以前)に掲載されていたコンテンツのうち、音楽関連のものはこちら[REVIEW]に移動しました。
また、MONTHLY PICKUPのアーカイブ(過去掲載分)は、REVIEW ARCHIVEに移動しました。
トップページで紹介されるMONTHLY PICKUPは、更新され次第古い記事は全てREVIEW ARCHIVEへ格納されます。


Apple Store(Japan) Apple Store(Japan) EIZOダイレクト

映画 "BORN TO BOOGIE" レビュー | 発売記念ニュースはこちら

T.Rex全盛期の1972年。あのリンゴ・スターが監督した映画「おかしなおかしな石器人」ではなく、「BORN TO BOOGIE」がようやくDVD化。
DVDというフォーマットがそろそろ古くなるかも知れないという絶妙なタイミングでの登場は、どこかビミョーな気配を感じて(以下略)
(ちなみに、写真はUK盤のパッケージ。写真では判りにくいが、パッケージ・カバーのイラスト部分は立体加工が施されている。なかなか良い。)


当サイトのブログで何度かこのDVDを取上げてみましたが、ここでは、客観的且つ内容以外の面に重点を置きました。
ちょっと辛口ですが(実は何度か書き直していて、それほど辛口じゃなくなってきている・・・マークの魔法のせい?)、それは次回への期待を込める意味が含まれてますので、念のため。

■全体を通して

ボリューム過多。特に「DVD化されるまで」のプロセスを演出したシーンはそれ程重要ではないと思う。
映画本編以外の特典が膨大で、特にライブ映像は今まで発売されてきたT.Rex関連のビデオの中では間違いなく最高の出来だろう。これだけでももう満腹。ただし、映像のアングルなどは大して変わり映えがないので、余程のファンでない限り飽きてしまうのも事実。
映画本編、ウェンブリーでのライブ2本、ティラノザウルス・レックス時代のクリップ、DVD制作課程を演出したドキュメンタリー、関係者インタビュー、NG集などなど(日本版ではさらにもう1枚DVDが付属)。
これらの膨大な映像を2枚のDVDに詰め込んだのはちょっと無理があるのではないかと思うほど。データを詰め込み過ぎた分、画質の鮮明さが欠けるというオマケ付き。
とにかく、1日や2日では余程ヒマでない限り見つづけるのは困難だろう。


--内容編--

■映画本編(disc 1)について

この映画を観ればT.Rexの人気があった理由が一発でわかる。バンドとしてのT.Rexを堪能できるし、なにより、文句なしにカッコイイ。
グラムロックというより、70's British Rockのカッコ良さ、クールさがにじみ出ている。
映画は大きく分けて3シーン。一つはスライダーのジャケット写真にもなったあの帽子を被ったマークが詩を朗読したり、ティーパーティーを開催する演出シーン、そしてウェンブリーでのライブ映像シーン、そして、おそらくもっともこの映画の中で充実しているのではないか思われるスタジオセッションシーン。
スタジオセッションでドラムを叩くリンゴは、アップルビルの屋上で演奏したGet Backの頃よりずっとカッコイイし、エルトン・ジョンは今でこそおばさんっぽいけど、この頃は全然そんな素振りもなく、高橋名人真っ青なピアノ連打を披露する。
大袈裟な言い方かもしれないが、このシーンだけでも見る価値は充分にあるし、今回のDVD化によって一番良かったのはまさにここ。音声も光学録音(フィルム)独特の歪んだそれではなく、クリアでバランスの取れたものだし、やたらと充実感を覚える。

以前、日本国内で入手出来た映像はLD(レーザーディスク)や、VHSののサウンドトラックはMONO(モノラル)であったため残念な気分を味わった。

今回のDVDではマルチ録音されたトラックを基にSTEREO/SURROUND処理を施した。これにより、臨場感がくっきりと浮き上がってきたという印象を受ける。まさに、生まれ変わったT.Rexと映画「BORN TO BOOGIE」と言った感である。
臨場感の充実と同時に、各楽器の音がくっきりと再現されているのはMA作業がそこそこ大変だったんだろうと思う。

が!!!どこか物足りない。

この物足りない理由は後述する。

撮影に使われていたカメラ、DVDは横長のワイドスクリーン、フィルムは16mm。普通なら、4:3で撮影した16mmのフィルムを上下トリミングしたように見える。実際私も当初はそう思っていた。しかし、気になったのでVHSとの画像比較や、カメラについて持っている資料から推測すると、例えばArri SR 2 Super 16mmのようなタイプのWIDE撮影対応のカメラを使っているように思える。実は、このページを最初に書いた時は上下トリミングだと思ったけども、実際にはフルスペックだった。GJ!!!
以前発売されたビデオ版と画像を比較すると、フィルム情報の全てを再現していた。原作に忠実である。この点に関しては文句の付け所がない程だ。

余談だが、リンゴが担いでいたカメラ、なんとなくではあるけどbeaulieu 16カメラだろう。
話がずれてしまった。今回のDVDでは、原作に忠実に再現している。しかし、どうせなら、さらにもう一歩気合を入れて欲しいとも感じた。それは、後述もするが、テレシネの方法に雑というか、コストをかけずに行なったのではないか?という疑問を抱いたからだ。

比較画像の色調が異なるのは、VHS版を明るめにキャプチャーしたためによるものであり、DVD版のほうがより忠実に近い色再現であると思う。

■コンサート映像(disc 1)

圧巻。とにかく圧巻。QUEENのLIVE DVD"WE WILL ROCK YOU"以来の衝撃。しかし、衝撃の意味合いが違うので余り参考にならない。
映画本編の素材となったライブ映像をノーカットで「これでもか」というくらい堪能出来る。
こればかりは夜中にヘッドホンで観賞なんていうのは物足りない。真昼間のなるべく近所に迷惑のかかり過ぎない大きめの音量で楽しみたい。
ただ、映画本編と重なる部分があるのは事実。映画本編を観終わった後に続けてライブも観賞するには体力を要する。私がもっと若いうちに発売されていれば良かったのに・・・。

■おまけ映像たち(disc 1)

削除されたシーンやカットなど。
ただ映像を詰め込めばいいんだ!なんていう力技的なところが見受けられる為、手放しで良いとはいえない。質より量を選んだとも見受けられる。
これは一概に制作者のせいには出来ない。むしろ、こういう映像を嬉しがって評価する人の存在を無視出来なかったのだろう。
確かに、こういう映像を見ることが出来て嬉しいと思ったのは事実。しかし、要はバランスが肝心なのであって、何も全体的な画質を犠牲にしてまで盛り込む必要性を認められない。 でも、こういう映像ってファンクラブなんかが小出しに出してきて販売会社とずぶずぶな関係になっているんだろうなぁ・・・。日本版DVDのボーナスディスクもなんだか・・・(以下自粛)

■コンサート映像(disc 2)

衣装が違うので、それでdisc 1のライブとは違うんだという事がわかる。
映画の収録用の「カメリハ」みたいなものなんだろう。映画の世界では実際にフィルムを回してリハーサルするというのが存在しているし、映画だけなく一般のライブ・映像なんかでもリハの時に回した映像を使うことも常套手段である。このライブ映像にしても、そんな印象が強く感じる。
ちなみに、フィルムカメラは昨今のビデオと違いいちいちフィルムをマガジンに詰め替えなくてはいけない。
興行用映画ではフィルム装填済みのマガジンを大量に用意しておいて、尺が切れそうになったらマガジンをすばやく交換という段取りになっているのだが、それにしたってマルチカメラでの撮影なんだから結構コストが掛かっていると思う。大掛かりな撮影だったんだと改めて感じた。

このdisc 2に収められているコンサート映像には、一区切り終わったあとに、別のトラックでマルチアングルや、マルチトラック切替が可能なクリップを別に容易するという芸達者な面がある。良く言えばDVD(Digital Versatile Disc)の直訳どおりと言えるが、私個人の率直な感想としては、そこまでは必要がなかったのではないか?と感じる。
TD(テクニカル・ディレクター)の役回りを視聴者に押し付けようとする次世代デジタルTV放送を予感させる・・・というの軽い冗談だが、いちいちアングル切替ボタンを押すのははっきり言って面倒。

■インタビュー(disc 2)について

ビル・レジェンドやトニー・ヴィスコンティへのインタビューが収録されているが、あまり興味が沸かなかったのでしっかり見てない。
ローランが一生懸命インタビューをしている姿は微笑ましい。ただ、ローランである必要があるかどうかはファンの視点によって異なるところだと思う。
内容についてはネタバレになるのでなるべく控えておく。

■DVD制作に至るまでのシーン(disc 2)

リンゴ・スターの自宅倉庫(ガレージ)から大量に見つかったフィルム缶。その状態の悪さは散々たるものだったが、それをいかにして復元したかというのを、説明。
古いフィルムの編集点、それをフィルムセメントで接着されてはいたが、それがボロボロになってしまっていたので、手作業で綺麗にしていったというから、えらく骨を折ったご様子。 ただ、その後のフィルム・クリーニングなんかは、当たり前のことなので、わざわざ大袈裟に言う必要は無かったのでは?

■特典映像(disc 2)

ディスク2に収録されている特典映像の内容は、それだけでも充分見応えのある内容となっている。
disc1,2に収録されていた昼夜の「ウェンブリーでのライブ」映像も初めて見るものばかりで相当興奮した。しかしそれ以上に嬉しいと思ってしまったのが、ティラノザウルス・レックス時代の"Sara Crazy Child"(Beginning Of Dovesに収録)が特典として入っていた事。これには、B/Wの映像ではあるにせよ、本当に良いものを見せていただいたと思った。

アコースティック・デュオ時代の映像は余り見かけない。今でこそ海賊版まがいのDVDが流通するようにはなってはいるものの、そうしたタイトルを入手するにはマニアックなファンであることを自らを以って任じている必要がありそうだ。私にはもう出来ない。

特典映像としてもう一つ興味を惹かれたのが8mmフィルムの映像。
これはいわゆるプライベート・フィルムってやつで、カクカクした動きではあるものの、むしろフィルムっぽさが充満していて、いかにもといった印象を受ける。
こうした映像を、『ファンなら喜ぶ』なんていうコピーが絶対どこかで見られるんじゃないかな。
ただ、冷静に考えるとそんなに喜ぶほどのものではないだろうと感じる。むしろ、このどうでもいい映像のおかげで全体の画質落としてある(データ容量を稼ぐ為にビットレートを下げている)ように思えてならない。


--技術的見解と、総評--

このDVD、技術的な面から見ていくと、ツッコミどころが沢山ある。
まず、映像のビットレートについてだが、3.68Mbpsというギリギリの品質。
音声トラックを極端に増やしたり、さらには本編とは余り関係のない内容の映像をふんだんに盛り込んでしまうために、画質を犠牲にしたのだろう。ガッカリです。
映像のカラーバランスについてはなんどもとはいえないが、色空間が全体的に狭い印象を受ける。ただし、これは再生環境に依存する事であるので、断言は出来ない。

もうひとつがっかりした事、それは、デジタル化の方法と手段。
高解像度を謳(うた)うからには、フィルムを1コマずつジタルスキャンすると思っていたし、プロジェクトサイトにてフルデジタル化までもを謳うのなら、なおさらである。
しかし、現実は単純なテレシネ。よくある「古い8mm/16mmフィルムをVHSやDVDに変換しますよ!」っていうショップと同レベルに近い。
それをもとに作られたデータをPCで色調整をした程度の「デジタル化」であったのは、もうガッカリする以外には何も出来ない。ショックだった。
とはいえ、これは私が期待しすぎなだけで、本来は満足すべきクオリティーであるだろう。実際、上記の比較画像を見てもらえば判るように綺麗になっているは事実だ。

DVDコンテンツでは、これらのプロセスをあたかも「偉業を達成したかの如く」演出しているが、そんな子供騙しが通用するわけはない。言い過ぎ?
いや、「風と共に去りぬ」などのハリウッドの代表作と同様に、まともな「デジタル化」を期待しても当然のはず。そのくらいの価値のある映画「BORN TO BOOGIE」なんだから・・・。 こういう作品をデジタル化する際、確かに企業はコストの事を念頭に入れるだろう。もしフィルム1コマずつ全てデジタルスキャンし、NR等のデジタル処理するとなると、ある程度コストは嵩む。しかし日本版の価格を見れば、そのくらいのしても良さそうな価格設定になっているのは言うまでもない。
とはいえ、一般ユーザーとしては、今回のDVDで満足すべきなんだろう。

折角の高解像度のデータなんだから、ビットレートをもう少し上げてブロックノイズを減らして欲しかった。映像が暗めなので目立ちにくいが、やはり大きい画面で見ると気になる。

音声については、確かに悪くはない。けど、どこかウソっぽさを感じない事も無い。理由は機材にあるのだろうか?
以前、The Beatlesの"Yellow Submarine"がDVD化されたが、こちらは「当時の機材をとにかく集めまくって、それをもとにサラウンド化を施す」というもの(ロンドンのEMIスタジオにあるヴィンテージ機材を掻き集めたらしい)であったため、音声の質はまさに理想的な「サラウンド化」であったし、今回のDVDもそのくらいやって欲しかったけど、さすがに無理だったようだ。
MAで使ったデジタル機材(Protools)を悪いとは言わないが、ヴァーチャルな奥行きはDolbyの技術で再現出来ても、本来の奥行き感を犠牲にすることは無かったはず。
そもそも、当時録音した時の機材が、今やヴィンテージ機材といわれる高級機材なんだから、やはりその当時のアナログ機材で作りこんでいって、最後にAD変換っていうのが理想。

ここまで、かなり辛口で書いてきてはいるが、全体を見ればそれほど悪くはない。むしろDVD化にチャレンジしたという功績は大きいし、DVDの値段にしても3000円弱(UK/US版)である。その点で言えば、CPは極めて良いと思う。
日本版の価格に関して言うと、はっきり言って高い!!!としか思えないけども、英国がPALで日本がNTSC(J)なんだから日本のユーザーは泣き寝入りだ。せめて4500円程度にすべきだろう。
私はT.Rexが好きではあるが、それと同時単なる消費者である。価格が高くてもファンなら買ってしまう、いや買わなくてはいけないんだ、見たいな心理をメディアや団体、企業のサイトなんかでは匂わせているが、その辺りは冷静になってみて欲しい。リージョンフリーの再生機を持っている方(もしくは、リージョンフリーのDVD再生ソフト/ドライブを実装しているPCユーザーの方)なら、アメリカ版のDVDがそれこそ3500円前後(Amazonから予約受付をしている)なのでそれで充分だと思う。
T.Rexが好きだからこそ、今回のDVDについては酷評とも見受けられるくらいの、しかし率直な意見を書いてしまったが、そうはいいながらも、結構満足している私であった・・・。
2005/05/25